4冊目

Another

Another



いやあ面白かった。面白い上に長いからいつまでも読みつづけていられて幸せだった。
あとがきに「おおかたの読者の意表を突く「答え」が用意されている」とあるけど、言葉通り意表を突かれました。


アメトークのプロレス芸人を見ていたら、プロレスラーという、自分の身体で勝負している人たちが眩しく見えてきた。感情を必要以上にむき出しにして、自分の身体をすべてさらけ出して体当たりでぶつかっていく様が物凄く格好いい。ど迫力の攻撃技を繰り出して、相手が嘘みたいな勢いで吹っ飛んでいく。己の全てを出し切って、命を削りながら、痛みに耐えながらもそこで得る快感は、生きているという実感をこれ以上なく感じさせてくれるんだろうと思う。
ポルノスターにもそう感じることがある。カメラを意識しながらの演技ではあるけれど、文字通り裸一貫、性という動物の本能を最大限に爆発させて相手とともに作り出す熱量はやっぱり性的興奮とはまた別の形で圧倒される。勝手な幻想かもしれないけれど。とにかく、自分の身体をフルに爆発させて、人々を魅了する、それを職業にして生きていくというのが、毎日椅子に座って事務作業をひたすら行っている自分からすれば憧れを抱く。野球選手だって俳優だって自分の身体で勝負してるんだろうけど、身体という意味でいけば一番分かりやすくてインパクトが強いのがのが上に挙げた二つの職業だと思うのだ。
よく見るものの中で言うと、フィギュアスケートなんかも同じだね。芸術、というキーワードから見たときに、小説家や画家、あるいは彫刻家というのは、芸術作品を自分の身体の外側に作り出すんだけど、彼らは自分の身体が芸術になる。芸術を作り出すんじゃなくて、自分自身が芸術になる。フィギュアスケートを見るようになってそのことに気づいたとき、なぜか「こいつらずるい」と思った。
養老たけしが「バカの壁」で、「個性は身体に宿る」と言ってたけれど、その意味が把握できてきた。

http://mainichi.jp/enta/art/news/20100105ddm041040044000c.html


芥川賞

大森兄弟  34、33「犬はいつも足元にいて」    (文芸冬号)   初

羽田圭介  24   「ミート・ザ・ビート」     (文学界12月号)2

藤代泉   27   「ボーダー&レス」       (文芸冬号)   初

舞城王太郎 36   「ビッチマグネット」      (新潮9月号)  2

松尾スズキ 47   「老人賭博」          (文学界8月号) 2

 <直木賞

池井戸潤  46   「鉄の骨」           (講談社)    2

佐々木譲  59   「廃墟(はいきょ)に乞(こ)う」(文芸春秋)   3

白石一文  51   「ほかならぬ人へ」       (祥伝社)    2

辻村深月  29   「ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。」  (講談社)    初

葉室麟   58   「花や散るらん」        (文芸春秋)   3

道尾秀介  34   「球体の蛇」          (角川書店)   3






すげーおもしれー。
芥川賞は話題性抜群じゃないか。共作初の候補だし、知名度抜群松尾スズキがいるし。舞城が獲ったら覆面を脱ぎ捨てるのかという興味もあるし(ふうん、36歳なんだ)。羽田圭介も若くて格好いいから獲ったら注目浴びそうだし。
直木賞も、ベテランの佐々木譲に三回連続の道尾秀介葉室麟に人気上昇中辻村深月などなど。唯一読了済みなのは道尾秀介の「球体の蛇」。驚くほど地味な話を、しかもいつもの大がかりなトリックがないにもかかわらず、興味が落ちることなく最後まで読み切らせる凄い作品。文学性があって、ちゃんと濡れ場も作っていて、もう三度目だし、受賞の可能性は大きいんじゃないかな?獲ったら盛り上がるだろうなあ。
最近は各賞一人ずつ、が基本になってるけど、久々に合計四人の受賞なんてしてくれないですかね。舞城・羽田・道尾・辻村なんて組み合わせになれば個人的に祭りが始まるんですが。

3冊目

お好みの本、入荷しました (桜庭一樹読書日記)

お好みの本、入荷しました (桜庭一樹読書日記)

作家サクラバカズキは、本と一緒にお風呂に入る。毎日毎日本を読みつつ、ラスベガスへ、アイルランドへ、そして鳥取へ、稀代の読書魔は世界をめぐる!そして突然の結婚に至るまで。『私の男』赤朽葉家の伝説』『製鉄天使』の桜庭一樹が縦横無尽に読んで過ごした一年間。



紹介されてる本は、普段自分じゃあまず読まないような本(海外文学や文芸評論が多い)ばかりだけど、これだけの情熱と愛情を持って語られると、自分の感知したことのない豊穣な世界を見逃していていいのだろうか、と読みながらそわそわする。今すぐ大型書店(もちろん新宿紀伊国屋!)へと突っ込んで、今まで足を運ぶことのなかったエリアをぐるぐるぐるぐる目が回るくらい彷徨いまくって目が回るくらい買いまくって読みまくりたくなる。そんな金はないけれど。



「文化はいつもこういう場所で生まれる。ちいさくてふくざつな場所で。それを忘れたらいけない。偉く(くだらなく)なるなよ。わたしも、いまこれ読んでる人も。読者だって、油断してたら、読みながら偉くなっちゃうんだから。」P27


これ読んで姿勢を正す。偉くなるかもなあ。この文の本当に意図したことは分からないけど、読む本や、何かの対象について、全てを知っているかのように見下したり簡単に決めつけたりしないように、と戒める。

2冊目

×××HOLiC アナザーホリック ランドルト環エアロゾル

×××HOLiC アナザーホリック ランドルト環エアロゾル

ここは、この場所は、願いを叶える店。自分で願いを叶えることができる人は、入ってくることも、視ることもできない…。CLAMPの「×××HOLiC」ノベライズ化に西尾維新が挑む。



西尾維新は天邪鬼なところがあるよなあと思っていて、刀語の4巻もそうだし(あれは痛快だった)、デスノートのノベライズを読んだ時も、原作の要素を逆手にとって自分のやりたいことを思う存分やってるなあ、と感嘆した。
で、今作もそう。素直にノベライズをやってない。
全部で三篇収録されていて、うち二つは店に「アヤカシ」が関連しそうな悩みを抱えた依頼者が訪れるという、漫画のスタイルを踏襲した形式を取っている。なのに、結末は漫画と違う。決定的に違う。どちらかというとミステリっぽくなってる。ホリックといより、どちらかというと冒頭のエピグラフに用いられた京極堂シリーズに近いんじゃないか。ノベライズなのに実際のところ原作の重要な部分を否定してない?という気がする。だけど、人間の心の奥底に隠された部分に光を当てるという点ではこの小説のほうが優れていると思う。




今度誰か一緒にあさましい台詞でしりとりをしましょう。

1冊目

クリスマスのフロスト (創元推理文庫)

クリスマスのフロスト (創元推理文庫)

ロンドンから70マイル。ここ田舎町のデントンでは、もうクリスマスだというのに大小様々な難問が持ちあがる。日曜学校からの帰途、突然姿を消した八歳の少女、銀行の玄関を深夜金梃でこじ開けようとする謎の人物…。続発する難事件を前に、不屈の仕事中毒にして下品きわまる名物警部のフロストが繰り広げる一大奮闘。抜群の構成力と不敵な笑いのセンスが冴える、注目の第一弾。



怒涛の如くいくつもの事件が次々と起きる。一つの事件を追っているだけなのにいつの間にか他の事件に巻き込まれてしまったり、関係ない事件の犯人を捕まえてしまったり。目まぐるしく移り変わっていく展開に、後半はページをめくる手が止まらなかった。ミステリーだけど推理やサプライズ的要素は全くなく、テーマも特になく、ただ筋を追うこととフロスト警部という下品でだらしなくて仕事中毒のキャラクターを楽しむだけの小説だったけれど、これはこれで楽しみながら読むことができた。続編があったら読んでみたいと思わせてくれます。


ギャグ関係ではそんなに笑える箇所はなかったけれど、会議をすっぽかすという天丼は面白かった。

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ブログを移行して続けてたけど、
やっぱりはてなのほうが使い慣れていてやりやすいので、こっちで書くことにします。
今は年始で気分も一新されているので、今月中旬あたりまでは更新に対するモチベーションが高いと思いますが、下旬にさしかかったあたりから失速してくるんじゃないでしょうかね。








さっそく、誰も知らないだろうけれど年末恒例で行っている、面白かった小説ベスト10。








10位

恋文の技術

恋文の技術

電車の中で読んでいて、笑い層になるのを頑張って我慢して、だけどあまりにおかしい記述が続いたから最終的には周囲の目なんてどうでもいいやと開き直ってにやにや笑いながら読み進めました。




9位

サクリファイス

サクリファイス


スリードからの真相解明が鮮やかだった。それまで見えていた構図が綺麗に裏返って、亡くなった人間の本当の感情が明らかになり、「サクリファイス」というタイトルが重い響きを持つ。



8位

七回死んだ男 (講談社文庫)

七回死んだ男 (講談社文庫)


SFやミステリーが本来的に所持している「バカバカしさ」という要素を最大限に生かした作品。くだらない要素が多くて、笑えて、しかもその一つ一つがちゃんとミステリーの構成要素になっている。



7位

聖女の救済

聖女の救済


トリックが凄かった。こういう観点からトリックを考えついた犯人の執念の凄まじさに恐れ入った。もちろん作者にも。



6位

ファミリーポートレイト

ファミリーポートレイト


一作ごとに進化を遂げていく印象がある。
虐待されながらも互いが互いを強く求めあう母子関係の強さに圧倒される。逃避行の際に訪れる街も存在感が強い。



5位

粘膜蜥蜴 (角川ホラー文庫)

粘膜蜥蜴 (角川ホラー文庫)


2009年話題になった新人作家だったけれど、噂に違わぬ傑作。最低な人間や狂った人間たちが巻き起こす前半40ページの怒涛の展開に目を回し、中盤に続々現れる秘境に生息する気持ち悪い虫(?)たちの描写に不快感を催し、終盤のまさかのミステリー的結末に意表を突かれる。今後注目の作家さんです。
デビュー作の「粘膜人間」もグロテスクという観点ではこの作品をはるかに凌いでいた。



4位

片眼の猿―One-eyed monkeys (新潮文庫)

片眼の猿―One-eyed monkeys (新潮文庫)


メッセージ性の強い作品で、そのメッセージに深く感応してしまった。本を読んで勇気づけられるっていうのは久しぶりかもしれない。



3位

女王国の城 (創元クライム・クラブ)

女王国の城 (創元クライム・クラブ)


これこそミステリー!と思わせてくれる殺人。閉鎖空間で行われる殺人事件という典型的なスタイルを取っていて、驚くほど完成度が高い。主人公たちの掛け合いもほのぼのとしていて楽しかった。



2位


短編集だったけれど、どれも変わった趣向を凝らしていて面白い。特に「交換日記はじめました!」は、結末が到底予測のつかない地点へ運ばれて行って愕然。平易な文体でさりげなく書かれているようで、実はぷろっとについてとてつもなく考えているんじゃないだろうか。
恋愛に奥手な冴えない人たちを取り上げる小説はありそうでないのでこの人は貴重。草食系男子なんて(僕みたいな)人が増えてるんだから、そういう需要は増えてくるんじゃないかなあどうだろう。



1位

NO CALL NO LIFE (角川文庫)

NO CALL NO LIFE (角川文庫)


本来このベスト10を考えるときに再読本は入れない(というかそもそもめったに再読をしない)んだけど、今年は例年に比べて不作だったのと、初読時と比べて受けたインパクトがあまりに違ったので、今年はルールを変えて再読本を一位に持ってきました。ちなみに2007年のベスト10で10位に挙げている。
最初読んだ時も10位に挙げたくらいだから相当の感動はしたはずなんだけど、今回文庫を買って改めて読んだら、結末があまりに切なすぎて、今まで小説でこんなに泣いたことないよっていうくらい涙ぼろぼろぼろぼろとこぼれてくるじゃないですか。特別傑作とも思わないんだけど、自分のツボにはまってしまったらしい。なぜ最初に読んだ時にそうならなかったのかは不明。2年間でいろいろ変わったということなんでしょうか。
この人のラノベはあまり好きじゃないけれど、一般文芸進出第一作の本作は僕の心にいつまでも残り続けるであろう大変な小説になりました。今年はこの人の本を読んでいこうかなあと思います。






その他2009年の読書について。
作家別読書冊数を調べてみたら、米澤穂信が六冊。ようやく古典部シリーズを読み始めたからです。
北村薫も六冊(アンソロジーをいれると七冊)。円紫さんシリーズがうち五冊。続編書いてほしい!
人気沸騰道尾秀介が5冊(再読入れると6冊)。
北方謙三が楊令伝と楊家将合わせて六冊。

綾辻行人の暗黒館や島田荘司のアトポスは長すぎだと思う。

伊坂幸太郎は読者を減らそうと奮闘中なのか。個人的には、あるキングは受け入れられたけどSOSの猿は受け入れられなかった。新刊が出たらすぐ買い求める数少ない作家だけど、これから先はどうなるか分からない。