11冊目

「陽光を反射してきらめく水面に点々と散った手紙は、打ち寄せては引いていく波にもまれて、一つ、また一つと見えなくなっていく。それを喬史は追いかける。喬史の横顔には怒りも悲しみも何もなく、ただ懸命なだけだった」
「わしがなんぼ醜くても、わしの見るもんまで醜いたあ限らんじゃろう」


夏光

夏光



06年に表題作が「オール読物新人賞」受賞、07年に他4篇を含む本作でデビューという、とっても目立たない形で世に出た作家。
何となく気になっていたので図書館で借りて読んでみたけど、その直感正しかった。
この人並の新人じゃないや。
ジャンルでいえばホラーや幻想小説に分類される。多分。
とにかく文章力がある。特に情景描写や比喩。情景描写は、普段本を読むときは読み飛ばすことが多いんだけど、この人に限ってはじっくりとその様子を想像して頭の中の情景を味わいたくなる。さほど新味のないストーリーも中にはあったけれど、その文章力に魅了されて物語世界へと引き込まれる。
表題作と「out of this world」が、傑作度が高い。真夏の太陽が輝く中で、過酷な毎日の中手を取り合って生き、悲しい結末へ向かっていく少年たちの姿が切なくてでも眩しかった。
それと、個人的には「は」がばかばかしくて好きだった。


今はさほど有名じゃないけど、いずれ何かのきっかけで売れる。はずだ。





★★★★☆