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「ある人文科学的実験の被験者」になるだけで時給十一万二千円がもらえるという破格の仕事に応募した十二人の男女。とある施設に閉じ込められた彼らは、実験の内容を知り驚愕する。それはより多くの報酬を巡って参加者同士が殺し合う犯人当てゲームだった―。いま注目の俊英が放つ新感覚ミステリー登場。




単行本を図書館で借りて読み、文庫本(石原さとみ版)を買って再読。
ミステリが消費しつくされた中でクローズドサークルをやろうとするとこういうことになるわけですかね。主催者側が「クローズドサークルを作って殺し合いをさせてやろう」という意気込みを持って、過去のミステリ作品を参考にしておあつらえ向きの舞台を作り上げる。クローズドサークルというジャンルが存在することを前提にして中の人が動いている。作者じゃなくて登場人物(出てこないけど)がそういう舞台を人工的に作ったんなら、クローズドサークルが持つ一種の馬鹿馬鹿しさにも一応納得せざるを得ない。結局ミステリの文法を知っている者が少なかったせいで用意した材料(人数分の人形とか、ミッシングリンクとか)が生かされなかったのも、ミステリの世界での常識など世間には通用しない、ミステリ小説の登場人物だからといってミステリの論理通りに動くとは限らない、という皮肉のように映って面白かった。多数決で犯人決めちゃう辺りもそう。更に、主催者側が作り上げた舞台がミステリ的に欠陥があるとして(鍵がかからないのがおかしい、夜は部屋に戻らないといけないというルールが変)主人公が批判するのも、読者が作者を批判する構図と一緒で、つくづくメタ的な小説だった。


殺人が続発するストーリーは不穏な雰囲気や恐怖感に溢れているけれど、随所にちりばめられた主人公のユーモアや皮肉がおかしくて、さほど陰惨な印象を持たない。阿藤伊藤宇藤江藤尾藤加藤先生たちが出てくる下りなんて特に面白い。そこまでいったなら木藤と工藤先生も出してほしかった。頭が切れてちょっとひねたところのある主人公が米澤作品には多いけど、みんな魅力があって好きだなあ。